OUR MATERIAL AND TECHNOLOGY

REPORT

こだわりのスペイン産羽毛、
妥協のない素材選びと加工が生み出すもの

こだわりのスペイン産羽毛

SPANISH WHITE DUCK DOWN

高品質な羽毛と国内製造を追求し、最上級のダウン製品を生み出すNANGA。
ここではダウン製品の性能を左右する原毛と、
その性能を極める国内屈指の精製技術についてレポートしよう。

 NANGAでは全てのダウン製品に原産国証明をつけ、原産国を明示している。その原産国明示において、「ホワイトダックダウン」としていた製品は、この度、スペイン産ホワイトダックダウンだけを使用することになった。これまではフランス産やスペイン産、ハンガリー産などをミックスして「ヨーロッパ産」としていたのだが、ヨーロッパ産からスペイン産へ、産地を限定するメリットは何だろうか。
「現在、羽毛の主流は中国産の北京種ですが、うちではフランス、およびスペイン産のヨーロピアンホワイトダックダウンを主に使っています。NANGA製品に関しては原毛を全てスペイン産に変更しました」
そう話すのは、NANGA製品の製造を担う河田フェザー販売株式会社の河田昌浩さん。ダウン製品の品質や機能を決めるのは水鳥の品種だけではない。水鳥が飼育された環境と飼育期間も、その品質を大きく左右する。今回の原毛の変更にあたり、河田さんはNANGA代表取締役社長の横田智之とともにスペインの山の中腹にある生産者のもとへ視察に赴いた。

「水鳥飼育の歴史が古いフランスでは昔ながらの飼育方法を採用しています。ですから、『フランス産ダウン』というと、皆さん、いいイメージを持たれるんですよ。ただし歴史がある分、実際に生産者を訪れてみると、設備にそれ相応の古さを感じることも少なくない。一方、この業界での歴史が浅いスペインの生産者は、広大な土地に最新の設備を導入しており、非常に衛生的、かつのびのびとした環境で水鳥を飼育しています。あれだけの数が飼育されているのに匂いさえ気にならないほどです。設備、環境、そして大規模な飼育体制もあり、今後はスペイン産の羽毛がぐんぐんシェアを伸ばしていくでしょう」

 羽毛は食肉加工品の副産物である。フランスなど食にこだわるヨーロッパ諸国との取引がメインとなるスペインでは、水鳥の肉質を向上させるべく、長い日数をかけて熟成した水鳥に飼育する。これもスペイン産ダウンのメリットである。北京種の羽毛の多くが飼育日数40日未満の若い水鳥から原毛を得ているのに比べ、スペインでは飼育に80日程度を費やす。大きく育った水鳥からは、丈夫で反発性が強く、かさの高い原毛を得られる。こうした原毛の差は、製品を使っていくうちに明らかになる。成熟した原毛を使った羽毛製品はヘタリが少なく、長く使っていてもロフトが保たれるのだ。

「また、スペインは渡り鳥の飛行ルートから外れているので鳥インフルエンザの影響を受けにくいという事情もあります。加えて、スペインの山の中腹にある農場は人里から離れており、ウイルスにさらされる危険も少ない。そういった環境もスペイン産の羽毛のメリットだと思います」
 こうして得られた上質な原毛を、世界でも有数の設備と技術を備える河田フェザーが高品質のダウン製品に仕立てるのだ。

完璧な洗浄と精製工程が、
最上級のダウン製品を生む。

 河田フェザーの工場は三重県多気郡明和町にある。羽毛加工に適したロケーションを求めてたどり着いたのが、ドライな気候と国内屈指の軟水に恵まれたこの場所だった。
「高品質のダウン製品に欠かせないのは、清潔な羽毛です。うちでは長年培った技術で、目に見えないチリやホコリ、水鳥のアカや脂肪までも完璧に落とします。清潔な羽毛はヘタリも少なく耐久性も向上するうえ、撥水加工を施す際にも薬剤がのりやすい。菌の温床となるホコリやアレルギー源を全て取り除くので、アレルギーも起こりにくいんですよ」

 それでは河田フェザーの、実際の精毛工程を見せてもらおう。まずは除塵、水洗いの前に原毛についた細かなゴミや酸化した脂肪分、砂などを取り除く。ここで大きな汚れを落としきることが肝心、と河田さん。原毛の汚れの20%はこの工程で落ちるという。洗浄は超軟水と羽毛専用の洗剤を使い、大きなドラム式洗濯機で行う。この時、複雑な水流を使って原毛同士をこすり合わせ、米を研ぐように羽毛を磨き上げるのが河田式だ。河田さんいわく、「羽毛の表面の薄皮を一枚、むくイメージ」だそうで、実際、洗浄後の原毛は一段、白くなっている。
「洗浄には大台ケ原山地を水源とする、硬度3の超軟水を汲み上げて使っています。水の粒子が小さいので洗剤の使用量を抑えられ、浸透力が高いので羽毛の隅々にまで浸透し、微細な汚れや脂肪分を取り除くことができます。弱アルカリ性の水は酸化箇所を還元する力もあり、羽毛の損傷部分を修復してくれます。羽毛加工に最適の水であることから、わざわざここに工場を移転させたんですよ」

 2回洗浄・4回すすぎの後に140〜150℃の高温で一気に乾燥させる。冷ましたら再び除塵だ。洗濯機で落としたアカやホコリ、羽毛クズを完全に取り除いたら、風の力を使ってダウンとフェザーを分類する。品質試験を行い、自社内で採用した、日本羽毛製品協同組合が定めたよりも厳しい基準をクリアしたものだけが最後のブレンド工程に送られる。
 年間を通じて同じ品質を維持するため、異なるロットから品種や原産地、羽毛質の同じ羽毛をミックスマシンでブレンドする。羽毛は天然製品ゆえ、それぞれ膨らみ方やヘタリなど数値には現れない差が生じる。それを独自の技術で一定の品質に仕上げる。

 こうして加工された精毛が、「河田基準の羽毛」だ。静電気抑制加工を施した袋で各メーカーに送り出され、国内外の工場でアパレルウェアや羽毛布団に仕立てられる。
「羽毛はハードケラチン、つまり炭素でできていますから、そもそも丈夫なものなんです。100年以上、軟水で洗っていれば200年はもつ、優れた性能を備えた天然資源です。長く、大切に使ってもらいたいから、僕たちも品質に妥協しません。安心、安全な羽毛を、お届けしたいと思っています」

河田フェザー株式会社
河田フェザー株式会社

1891年に創業、日本で初めてスキー&タウンユースのダウンウエアを製造した羽毛専業メーカー。高品質な原毛を国内外から厳選して仕入れ、国内の工場で洗浄・精製加工を行い、安心、安全、清潔な羽毛を提供する。1世紀以上にわたって羽毛を向き合い続けてきた結果、独自の技術やセオリーを確立。圧倒的な技術力で国内シェアナンバー1を誇る。現在は羽毛を循環資源として再利用するリサイクル事業も積極的に行なっている。