INTERVIEW

NANGA PEOPLE

KENRO NAKAJIMA

ALPINIST

さすが日本ブランド!と登山家をうならせた
NANGA特製ダウンワンピースの底力

 中島健郎34歳。登山家にして山岳カメラマン。日本人で初めて8000m峰全14座を登頂した竹内洋岳からの信頼厚く、彼の数々の挑戦に同行。その活動の様子を記録している。一方、自身は2017年、平出和也とともに行ったシスパーレ北東壁未踏ルート登攀で第26回ピオレドール賞を受賞している。順調に山岳界に足跡を残してきたと言えるだろう。
「僕が山に登るのは、そこに誰も見たことのない景色が広がっているからだと思う。高所と呼ばれる世界に広がっている風景や自然が見せてくれる表情を、たくさんの人と共有できるツールが映像であり、写真。僕の見たものや体験を伝えられればと思って、機材を担いで山に登っているんです」
 これまで3座の8,000m峰に登頂しているが、そこでの体験は特別だという。朝日が昇るまで、あるいは日暮れ以降の空に現れるグラデーション、月光に照らし出される岩肌。死力を尽くして、ベースキャンプに戻った後、そこで味わうスープの滋味深さ。
「そんな体験を切り取った自分の写真を自宅に飾っているんです。妻がセレクトしてプリントし、僕の誕生日にプレゼントしてくれました。写真にしろ山にしろ、自分の理解者がそばにいてくれるって心強いですよね」
 そんな中島さんとNANGAの出合いは、意外にも最近のことである。

アコンカグアで体感した
羽毛のポテンシャル

「そもそもは2017年、平出さんとパキスタン遠征に行った時に彼が持っていたダウンワンピースがきっかけです。エベレスト用のワンピースは持っているんですが、彼のは7,000m仕様に羽毛を減らしてシンプルに、軽く仕上げられていました。すごく快適そうなんですが、聞けばオーダーメイドだという。そういうものをどこかで作る機会があればって、その時から思っていたんです」
 昨年、同じ登山家の花谷泰広さんから紹介を受け、NANGAと繋がった。最初にリクエストしたのが、写真のダウンワンピース。今年1月、三浦雄一郎さんの挑戦のサポート役として南米大陸最高峰のアコンカグアに向かった際、初めて袖を通した。
「最終日はアタック時、一日中着用していました。これまでダウンワンピースは8,000mを超える環境でしか使ったことがなかったのですが、これは軽くて動きやすく、7000mの最終アタックにも非常に有効でした。そして軽く仕上げてもらったにも関わらず断然、暖かい。『羽毛の底力』というんでしょうか、底知れぬポテンシャルと、採寸から1カ月足らずでこれを仕上げてくる日本のブランドの技術力を痛感させられましたね」
 もちろん、使い勝手についてはまだまだ改良の余地がある。倉岡裕之さんのエベレスト仕様をベースにしたデザインは、ミニマム志向の中島さんにはトゥーマッチ。けれど、担当者と密にコミュニケーションをとり、自分好みの仕様やディテールに仕上げていくのも、これまた面白いプロセスである。
「末端冷え性の僕が切実に欲しいと思っているのは、特別なダウングローブ。軽くて暖かくて、細かい作業も可能という奇跡のようなグローブ、いつか作れないですかね」
 これからの活動としては、昨年偵察を行なった、K2の未踏バリエーションルートを目標として掲げていきたい、と中島さん。
「K2のバリセーションは難しすぎて、今はまだ自分たちに何が足りないのかさえつかめていないんですが、少しずつ準備を進めて実現させたいですね。そうだな、軽くて暖かくて細かい作業も行えるダウングローブがあったら、実現するのかな(笑)」

KENRO NAKAJIMA / 中島健郎 (ナカジマ・ケンロウ)
NANGA PEOPLE

KENRO NAKAJIMA

中島健郎(なかじま けんろう)

1984年、奈良県生まれ。生まれ育った奈良県で山に親しむ。関西学院大学に入学後、山岳部に所属。在学中に2つの未踏峰を登頂する。卒業後は海外トレッキング&登山のツアーガイドを務めるとともにカメラマンとしての活動をスタート。テレビ番組『世界の果てまでイッテQ』にはカメラマンとして参加、マッキンリーおよびエベレスト挑戦など、数多くの登山を記録している。2017 年、パキスタンのシスパーレ北東壁未踏ルート登攀で第26 回ピオレドール賞、第12 回ピオレドールアジア賞を受賞。