


Research and Development of NANGA
研究で導いた理想を、フィールドでの安心感に
暖かさの理由を、設計へ変える
ナンガのダウン製品は、長年の経験だけで作られるものではありません。羽毛や生地の特性、キルト構造を数値で捉える研究開発機関NML。そして、その設計を実際に縫い、高い品質で量産へつなげる工場の技術。理論と手仕事、両者の妥協なき現場主義が重なり合うことで、私たちのモノづくりは成り立っています。
ナンガ独自の研究機関「NML」では、羽毛・生地・キルト構造を科学的に検証。断熱性や快適性を数値化し、過酷な自然環境で求められる性能を製品へと落とし込んでいます。その一方で、アウトドアのエキスパートとも協力し、フィールドでの使用感も反映。寝袋で培った知見をダウンウェアや寝具にも応用し、ナンガのモノづくりを理論と実証の両面から支えています。

その中でNMLが担うのは、経験や感覚で語られてきた暖かさを、数値として捉え直すこと。そもそも、なぜナンガの寝袋は暖かいのか。その理由を明らかにするために、縫い目のピッチから羽毛量、バッフル形状に至るまでを検証し、どこに優位性があり、どこに改善の余地があるのかを明らかにしていきます。そうした“答え合わせ”は単なる再確認にとどまらず、羽毛の力をより効率よく引き出す設計の着想にも発展。独自のキルト構造を考えるための土台になっていると、開発技術者の宮本祐史さんは語ります。

実際の使用状態に近い条件で、保温性や快適性を数値化していました。
「例えば、ハイフィルパワーの羽毛を使えば、確実に暖かいわけではありません。羽毛は十分に広がる空間があってはじめて、本来の性能を発揮します。反対に、詰め込みすぎると空気の層が減り、保温力を引き出せない場合もある。どのくらいの空間に入れるか、生地とどう組み合わせるかで、暖かさの引き出し方は変わってくるんです」
NMLでの検証によって、ナンガのダウン製品開発は、素材のグレードやフィルパワー、羽毛量といった分かりやすいスペックに頼るものから、製品の役割に応じて性能を設計する考え方へと進化。その積み重ねは、極地対応モデル「LEVEL8」の開発にもつながっていきました。

「現在の開発で重視しているのは、重量などの制約がある中で、限られた羽毛量をどう活かすかということ。種類によって異なる羽毛の特性、生地の重さや通気性、バッフルの体積、キルト構造を一つの組み合わせとして捉え、製品の役割に合わせた最適な仕様へ落とし込んでいます」
羽毛量あたりの保温力を高めることが、軽さや寝心地、扱いやすさを損なわない製品づくりにつながっていく。こうしてスリーピングバッグで得られた知見は、ダウンウェアの「LEVEL7」や現在のダウンジャケット、GOOD SLEEPINGの羽毛布団にも応用されています。
しかし、NMLで導き出された仕様は、そのまま製品になるわけではありません。設計図の通りに縫えるのか。量産時にも理想の品質を保てるのか。縫製工程に無理はないのか。それを見極めるには、本社工場のサンプル制作チームや生産管理との連携が欠かせないのです。

旗艦モデルのダウンスリーピングバッグやダウンジャケットを生産する、滋賀事業所の縫製工場。ここではNMLが作成した仕様書をもとに、サンプル制作チームが量産に備えた試作と調整を行います。どの順番で縫い、どこから羽毛を封入し、どこで閉じるのか。図面上の設計を、確かな品質で量産できる製品へと落とし込んでいきます。
理想に実体を与えるために
新作のサンプル製作に入る前には、NML、生産管理、裁断、製造のメンバーが集まり、開発の意図や仕様の意味を共有します。なぜこの構造が必要なのか。どこが製品の特徴なのか。その前提を理解したうえで、実際にどう縫っていくかを考えるのが、サンプル製作チームの役割です。
「最近は、立体キルト構造や極地対応モデルに採用される多層構造など、高度な縫製技術を求められる製品も増えています。NMLが描いた理想を、実際に縫える手順へと置き換える。その試行錯誤こそが、私たちの重要な役割なんです」

そう話すのは、サンプル制作を担当するタイントゥさんです。彼女は分業制の縫製工場の中でも、丸縫いと呼ばれる、一人で全工程を縫い上げる技術を持つ数少ないスタッフのひとり。実際に手を動かして作ってみることで初めて見えてくる問題もあるため、サンプルを縫いながら他部署と調整し、量産前の工程づくりを進めていきます。
実際に量産に入るまでは、幾度も試作とフィードバックを重ねます。縫製のしやすさ、品質の安定性、工程の効率を一つひとつ確認し、量産に向けた形へ整えていく。その現場の声と開発側の意見をつなぐのが、生産管理の嶌田さんです。

「新製品の研究開発は、場合によっては理想から入る部分があります。そこで大切なのは、その設計をどれだけ製品として再現できるかです。製造効率を考えることは、価格や安定した品質という形で、ユーザーのメリットにもつながる部分。研究と製造が社内で密にやり取りしながら、確かな形にしていける。これもナンガの強みですね」
完成した製品を見ただけでは、研究室での検証や工場での試行錯誤は見えてきません。しかし、ひと針ごとの判断や、グラム単位の調整、部署を越えた対話の先に、ナンガ製品の暖かさは生まれています。研究で見つけた理想を、実際に使える道具へ。そして、ユーザーがフィールドで感じる安心感へと変えていく。その見えない連携こそが、ナンガのモノづくりを支えているのです。