


THE ANATOMY OF WARMTH
なぜ、ナンガの寝袋は温かいのか。
快適性をひもとく方程式
ナンガの寝袋の温かさは、羽毛の品質や量だけで決まるものではありません。体の熱を逃がさない構造、湿気や水濡れへの備え、肌に触れたときの心地よさ。その一つひとつに、研究と検証から導き出した理由があります。

この記事では、研究開発機関NANGA MOUNTAIN LABORATORY(NML)の宮本祐史さんが、新しい寝袋の細部をひもときながら、暖かさを生み出す設計と、その背景にある考え方をお伝えします。
より良い寝袋を生み出すために
NMLの出発点は、ナンガがこれまでつくってきた製品の「答え合わせ」にあります。なぜこの寝袋は温かいのか。この構造には、どんな意味があるのか。長年培ってきた技術や経験を科学的に検証し、そこで得られた知見を次の寝袋づくりにつなげる。それが私たちの役割です。

例えば、フィルパワーの高い羽毛も、十分に膨らむ空間がなければ、その力を活かしきれません。羽毛の量や種類に加え、生地や内部の仕切り方を組み合わせて考えることで、限られた重量の中でも保温性を高められるのです。
2026年に刷新されたオーロラテックス ライトやドライドレイト バッグでも、こうした考え方をもとに、素材や構造を見直しました。目を向けたのは、保温性はもちろん、実際に寝袋に入ったときの使い心地です。
快適性を追求した新たな構造
寝袋の中で心地よく過ごすには、温かさを保ちながら、暑さや蒸れにも対応できることが大切です。さらに、肌に触れる感触や頭まわりのフィット感も寝心地を左右します。今回の改良では、そうした細かな使い心地にも目を向けました。


01|温度と湿度を調整するベンチレーション
新しいオーロラテックス ライトには、顔の左側にベンチレーションを追加しました。寝袋の中に熱や湿気がこもったときに、ここから逃がして調整できるようにしています。温かさを確保することと、必要に応じて熱を逃がすこと。その両方を行いやすくするため、保温性に配慮しながら取り入れた構造です。

02|顔に触れる部分に、起毛トリコットを採用
オーロラテックス ライトの顔に当たる部分には、起毛トリコットを配置しました。従来のナイロン生地に比べ、触れたときの冷たさを感じにくくするためです。寝袋の保温力に加えて、素肌に触れる部分の感触にも配慮する。そんな小さな見直しも、快適な寝心地につながると考えています。

03|重ね着を想定したフード設計
ドライドレイト バッグは、フードをかぶったりダウンパーカーを着用した状態でも調整しやすいよう、頭まわりを少し広めに設計しました。寒い場所では、防寒着を着たまま寝袋に入ることもあります。その状態に合わせてアジャスターを調整し、頭まわりをぴったりとフィットさせることで、保温力を高められるようにしています。
温かさを逃さないための工夫
体から出る熱を、寝袋の中でどう活かすか。同時に、熱が逃げやすい部分をどう減らすか。素材の働きとパーツの配置、その両面から保温性を見直しています。


01|体の熱を活かす、アルミスパッタリング材
従来、肩まわりのネックウォーマーに用いていたアルミスパッタリング材を、今回追加したウエストウォーマーにも採用しました。体から放出される赤外線を金属の層で反射し、体側へ戻すことで保温を補う構造。これを肩まわりに加えて腰まわりにも配置することで、自分の体から出る熱を、暖かさの維持に活かしています。

02|ファスナーを、冷たい地面から離す
パーツをどこに置くかという判断も、温かさと使い心地に関わっています。特にファスナーは寝袋の中でも熱が逃げやすい部分であるため、配置を見直し、冷たい地面から距離をとることで、保温性の向上を図りました。また、冷気の侵入を防止して保温性も高めるドラフトチューブを設けることで、寝袋の中で手がファスナーに触れ、冷たいと感じる場面を減らすことも狙っています。
水分への対策で、温かさを守る
軽さと撥水性を追求した山岳用寝袋、ドライドレイト バッグでは、水分による保温性の低下を抑える工夫も施しています。厳しい寒冷環境では、外からの水濡れに加え、寝袋の内側から出た水蒸気が表面で結露し、凍りつくこともあります。こうした内外の水分に備えることも、暖かさを保つために大切なのです。


01|撥水性を持つUDD DOWN
「UDD」はウルトラ・ドライ・ダウンの略称で、羽毛に特殊な撥水加工を施したダウンのことです。羽毛は濡れるとかさ高(ロフト)を失い、保温に必要な空気を抱え込みにくくなってしまう。そこで、羽毛そのものに水を弾く性質を持たせることで、水濡れによる保温性の低下を抑えています。

02|縫製糸にも、水を弾く工夫を
キルトの一番外側にくる縫製糸にも、撥水性をもたせています。これは、外からの水滴に加え、寝袋の内側から出た水蒸気が表面で結露・凍結した際に、その水分が内部へ戻りにくくするためです。生地や羽毛だけでなく、縫製糸まで含めて考えながら、水濡れによる影響を抑えています。
今ある製品を完成形だと考えない
NMLが開発で大切にしているのは、現状の技術や性能に満足せず、常により良い製品を生み出し続けることです。今ある製品を「これがベストだ」と完成形と捉えるのではなく、次にもっと良い「ベター」を目指していく。そのために、これまで培ってきた技術や経験を検証し、課題を見つけ、一つひとつ改良を重ねています。
今回ご紹介した肌に触れる生地やファスナーの位置、縫製糸の見直しも、そうした取り組みから生まれたもの。暖かさや寝心地、使いやすさを細部まで確かめながら、素材や構造のより良い組み合わせを探っています。
今ある寝袋を出発点に、その先に何ができるかを考え続ける。NMLでは、これからも研究と検証を重ね、寝袋のさらなる進化につなげていきます。
